【本日は、お日柄もよく】言葉のチカラ
言葉が持つ力を感じさせらる
シンプルな装丁とタイトルに惹きつけられ手にした本が、 原田マハさんの『本日は、お日柄もよく』でした。原田マハ作品を読むきっかけになった作品でもあります。
物語は、主人公がずっと想いを寄せていた、幼なじみの結婚式のシーンから始まります。好きな人の結婚式に参列しているわけですから、楽しい気分なわけがなく、いってみれば最悪なシチュエーションですよね。
ところが鬱々とした気分で臨んだ結婚式で、涙が出るほど感動的なスピーチに出会います。そこから主人公の人生が動き出し、スピーチライターへの道を目指すことになるのです。
最悪な状況から一変して感動、衝撃、人生観を変えてしまうほどのスピーチとは一体? 言葉の力を信じている私は、そこに強烈なインパクトを受けて、一気に読み進めていきました。
ライターという職業
ライターとひとことにいっても、様々なジャンルがあります。この作品で『スピーチライター』という職業があることを、初めて知りました。
文章を書くことが好きな私。でも、どちらかというと小説などのフィクションが得意です。本の感想、体験など、事実や自身の想いを文章にするのは苦手。ですから他人がスピーチする原稿を書くことなど、とてもじゃないですけど「あり得ない」と考えてしまいます。
政治の世界では、秘書や補佐役が原稿を書くことは周知されていますけれど、一般的な社会において、それが職業として成立するとは驚きでしたね。まあ代筆屋というのもありますし、それほど不思議はなかったわけですけれど。
誰かのことを書く場合、その人をよく知らなければ書けません。考え方、価値観、なにが好きで、なにが嫌いか、などなど。興味がある対象でなければ、そこまで時間をつかって書こうと思わない。ただ職業だとした場合は『ライター』としてプロ意識で割り切りも必要なのでしょうね。
相手の話しを聴き、言葉を引き出す
感情や思い入れだけでは、良いスピーチは書けないのですね。どちらかというと、客観性が必要。良い悪いではなく、フラットな感情を保つ。そして依頼者の伝えたいことに焦点をあて、それをどう言葉で伝えていくか。その一点が大切になってきます。
とはいえ、気持ちが全くないと、味気なくて体温が感じられない言葉になる。本当に言葉って難しい。スピーチライターとしての教訓を、主人公が学んでいくの様を読みつつ、自分に置き換えて考えさせられることも多かったですね。
私はときどき、コーチングによるセッションを行っています。コーチングで必要なのは傾聴。アドバイスは一切おこないません。相手の感情のみに焦点を当て、質問によって、相手の中にある答えを引き出していくのです。
スピーチライターに必要な要素は、コーチングとも共通しているところがありました。相手の感情に寄り添い、相手から言葉を引き出していく。決してライター自身の価値観でスピーチの原稿を書かない。そのためには、相手の話しをひたすら聴くことが求められます。
私自身とても学ぶべきことが多かった作品でした。