自分をご機嫌にするヒント

人生にはデコボコがつきもの。自分をご機嫌にする方法を見つけて、楽しく生きるヒントをご紹介。

青春小説に対する苦手意識を外してくれた『砂漠』

伊坂幸太郎の小説『砂漠』

 

様々なジャンルの本を読む私ですが、『恋愛小説』『青春小説』は苦手としています。何がどう苦手なのかを説明するのは難しい。敢えていうならば、面白い本に出会えてないだけかもしれません。

 

そんな中、伊坂幸太郎さんの『砂漠』を手に取りました。タイトルから青春小説だとは想像できませんし、もともと伊坂作品のファンですから、何も考えずに購入したわけです。ところが本の帯に『青春小説』と書かれてあるのを見て、少々驚いてしまいました。

 

伊坂さんといえば「ミステリー」という先入観があったのですね。しかも正統派というより、不思議な世界観が繰り広げられる『毛色の変わったミステリー』というイメージが強い。最初に読んだのはデビュー作でもある『オーデュボンの祈り』。ミステリーにファンタジーのスパイスが加えられた作品だったことが、印象操作を強めているかもしれません。なんせ超能力を持ち、人語を発するカカシが殺されるところから物語が展開するのですから!

 

奇想天外でユニークな発想と、クモの糸のように張り巡らされた伏線、魅力的なキャラクター設定が、伊坂作品の妙だと私は常々思っていました。ですから青春小説という分類にあっても、きっと単純なお話しではないはず、そんな期待感を持ってページをめくりました。

 

結論からいうと、期待を裏切らない秀逸な作品でした。物語の設定は大学で、登場人物たちはまさに青春真っただ中の世代。青春小説との位置づけも納得できます。が、一筋縄ではいかないのが、伊坂作品です。仙台市の大学で知り合った5人のキャラがとにかく面白い。ストーリーテラーの役割を果たす主人公が一番普通で、アクの強い4人がいい味を出してます。

 

伊坂作品に登場する人物は、何かしらの特殊能力が備わっていることが多い。この作品でも例外ではありませんでした。特殊能力といっても、実際にはあまり役に立たないものが大半で、そこがまた私的には好きなところ。

 

性格もバラバラで接点もない5人が、トラブルに巻き込まれながらも絆を深めていく。合コン、麻雀、ボウリング、恋愛、と内容的にはバリバリの青春小説です。それでも物語には小さな仕掛けが施されていて、最後まで飽きさせないのは流石のひとこと。

 

物語の中で事件がいくつか起こるのですけれど、張られた伏線が見後に回収されていきます。ここに繋がったか! と解決される瞬間がスッキリ爽快。勧善懲悪ではないけれど、善と悪が分かりやすいのも青春ならでは、という気がしてくるから不思議です。

 

性格も価値観も全く違う5人は、十代に知り合ったからこそ、ここまで絆を深めていけたように思います。社会人になってから出会ったのであれば、きっと関係性は異なっていたことでしょう。だからこそ、大学という舞台設定で、青春小説として描かれる必要性があったのだと、勝手に納得してしまいました。

 

何の役にも立たない正義をふりかざしたり、どうでもいい勝負にこだわってみたり。下らないこと、バカバカしいことを大真面目にできるのが、青春時代の特典のようなもの。社会に出たら単純に物事を楽しめなくなってきます。それは世間体だとか他人の評価など、自分以外のことに意識が集中してしまうからだと思います。

 

もちろん十代でも、思慮深い若者はいますし、大人になっても子どもの心を失わず、自分に正直に生きている人もいます。それでも環境や社会的な地位などによって、変わっていく傾向にあることは否めません。

 

砂漠を読んで一番最初に感じたことは、大人になれば自由になれるなんて神話を、どうして信じていたんだろう、ということでした。義務教育や未成年の間は、親や教師、周りの大人に支配され、行動を制限されているような気分でした。自分の意志では何ひとつ選択できず、お金も自由にならない。社会人になって自分でお金を稼げるようになれば、そんな足かせが外れて何でも自分で決められる。そんな風に真っすぐに信じていたころが懐かしいとさえ思えてきます。

 

実際のところ、大人になればなるほど不自由度は増していきます。会社に勤めるようになれば、社員としての立場が生まれるし、結婚すれば親・兄弟姉妹とは別の家族枠が出来ます。個人として自由気ままに行動しづらくなっていくのが現実。このように考えれば、大人たちによって束縛されていると思っていた十代の頃が、一番自分らしくいられる時期だったのではないか、などと少し感傷に浸ったりするのです。

 

この作品に巡り合えたおかげで、青春小説に対する苦手意識が若干薄くなった気がします。敢えて読もうと思うことはなくても、面白い青春小説に出会えることが楽しみになってきました。それが一番の収穫だったかもしれません。

 

『砂漠』伊坂幸太郎

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